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大阪地方裁判所 昭和54年(ワ)7196号 判決

原告 甲野花子

〈ほか一名〉

右原告ら訴訟代理人弁護士 木村達也

同 山川元庸

同 関根幹雄

同 井関和雄

同 大野町子

同 川谷道郎

同 蔵重信博

同 島川勝

同 高藤敏秋

同 中山厳雄

同 早川光俊

同 原田豊

同 細川喜子雄

同 松井忠義

同 三木俊博

同 水田利裕

同 吉田孝夫

被告 栄和商事こと 林国夫

右訴訟代理人弁護士 上坂明

右訴訟復代理人弁護士 水島昇

主文

一  被告は、原告甲野花子に対し、金一〇万三九四九円、原告乙山春子に対し、金一〇万五九六六円及び右各金員に対する昭和五四年一一月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その一を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。

四  この判決は、原告ら勝訴の部分にかぎり、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告甲野花子(以下「原告甲野」という)に対し、金五〇万五六七五円、同乙山春子(以下「原告乙山」という)に対し、金五六万一二五円及び右各金員に対する昭和五四年一一月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告らは主婦であり、被告はいわゆるグループ貸といわれる特殊な貸付を専業とする、俗にサラリーマン金融業者(以下「サラ金業者」という)である。

2  原告らは、訴外丙川夏子、同丁原秋子、同戊田冬子、同田戊松子、同乙川竹子、同丙原梅子、同丁海一枝、同戊花二枝の八名(以下「訴外人ら)という)(以下原告らと訴外人ら全員を「借主グループ」といい、各人を「グループ借受人」という)とともに、昭和五二年一二月一二日被告から以下の約定で同時に各人についてそれぞれ金五万円を借受け(以下「本件消費貸借契約」という)るとともに、右特約に基づき原告各自は当該原告を除くその余のグループ借受人の本件消費貸借上の債務につき連帯保証(以下「本件連帯保証契約」という)をした(以下右消費貸借契約及び連帯保証契約を併せて「本件グループ貸相互保証契約」という)。

(一) 利息 月九分

(二) 元金を二〇回に均等分割(一回あたり金二、五〇〇円)し、昭和五三年二月から毎月四日限り、午後三時までに、利息及び右分割された一回あたりの元金二、五〇〇円の合計金を被告方に持参して支払う。

(三) 特約

(1) グループ借受人各自は、相互に、自己を除くその余の全グループ借受人のために、その本件消費貸借契約上の右各債務について被告に対し同時に連帯保証(以下「グループ相互保証特約」という)をなす。

(2) 元利金の弁済は、グループ借受人全員分を一括して前記所定の分割払期日に被告方に持参するものとし(以下「一括弁済特約」という)、しからざるときは被告において弁済の受領を拒絶する。

3  しかしながら、本件グループ貸相互保証契約は、貸主たる被告において、借主たる原告らの法的無知及び経済的窮迫に乗じ、原告らに一方的な不利益を課す反面、被告が不当な利益を図ることを目的として締結されたものである。すなわち、

(一) 被告は原告らに対し、合計一〇人以上の借主を集めて本件借主グループを作ることを貸付の条件として要求し、しかも、各グループ借受人のほとんどが複数のサラ金業者から金銭の借受を行い、その返済に窮している主婦であるのに、その信用状態を全く問題としないで金銭を貸付け、かつ、これらグループ借受人一〇人全員に対して特約(1)のように、それぞれ自己以外のグループ借受人のためにその借受金につき相互に連帯保証させている。このように、金五万円程度の金銭消費貸借に九人もの連帯保証人を付けること自体通常ありえないのに、これに加え、グループ相互保証までなさしめているところ、その結果、原告らグループ借受人各自は、金五万円を借受けるために、実質上、借主グループの借入金合計である金五〇万円に対する元利合計金全額について、弁済の負担を絶えず強いられることになるのであって、右は法が予想する正常な人的保証の範囲を著しく逸脱するものである。

(二) 被告は原告らグループ借受人に対し、グループ全員分の一括弁済を強制し、原告らグループ借受人の各自の分のみの弁済を認めようとしない。その結果、原告らは、自己の借受金分に対する弁済を受領してもらうために、他のグループ借受人の借受金に対する弁済をも同時になさなければならず、この弁済のために他から無用の借入を事実上強いられることとなり、しかも借主グループ相互間の人的信頼関係が薄いことから、相互保証債務弁済に対する求償権を行使することが事実上不可能であったり、二重払をさせられる危険に絶えずさらされるばかりでなく、一括弁済を確保実現のために、借主相互間において他の借主を監視し、他のグループ借受人の弁済金分の取立を行うことを余儀なくされ、そのために各分割金弁済期には無用の出費とグループ借受人相互の絶え間のないけんかと憎しみを醸成し、その結果容易に生活破壊及び人格破壊に陥ることになる。

(三) 本件では、被告は、グループ借受人各自の弁済金の計算が複雑になることを避け、一括弁済を容易に実現させるため、貸付金額を各借主につき一人あたり一律金五万円と固定強制している。この結果、必要としない金員までも借受けざるを得ず、余分の金利負担を余儀なくされるところ、本件利息が出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律五条に規定する年一〇九・五パーセントの限界金利というべき月九分であることに照らせば、本件消費貸借契約は実質的に同法に違反するものというべきである。

(四) 本件グループ貸相互保証契約において、契約当事者の一方である原告らを含む本件グループ借受人らは全員主婦であり、利息制限法の存在、利息の計算、契約の内容及び法的効果等について、ほとんど確実な知識を有していないものであるところ、被告からは一括弁済特約の説明を受けたのみで他に十分な説明を受けず、金銭借入について経済的な窮迫に陥っており、法的に無知なために被告のいうままに、一方的に不利益な内容の契約を締結したものである。他方、一方当事者の被告は、原告ら借主を集団化させてこれを利用し、債権回収についての危険を何ら負担することなく、高金利債権の確保、顧客の開拓、取立費用の軽減等を実現し、貸主として不当な利得を図る不法な意図を以って契約を締結したものである。

以上のとおり、本件グループ貸相互保証契約は、借主兼保証人である原告らグループ借受人に一方的な不利益を課すものであって、被告が貸主としての優越的な地位を利用し、不当な利得を得ることを目的として締結したものであり、公序良俗に反して無効である。

4  被告は、原告らから本件グループ貸相互保証契約に基づく弁済として別表(一)及び(二)の各「弁済日」欄記載の日に同「弁済金」(以下「本件弁済金」という)欄記載の各金員を受領(以下「本件弁済」という)したところ、右契約は如上のとおり無効であるから、被告は右受領合計金のうち、少くとも被告が原告ら各自に貸付金として交付した各金五万円を控除した残額である、原告甲野については金八、一二五円、同乙山については金六万一二五円を、法律上の原因なくして利得し原告らは同額の損害を受けた。したがって、被告は右金員を、不当利得としてそれぞれ原告らに返還すべき義務がある。

5(一)  被告は昭和五三年一〇月四日午後五時四〇分ころ、原告乙山方において、債権の取立を目的として、原告ら両名に対し、その髪を引っ張り、身体を殴打し足蹴するなどの暴行を加えた。

(二) 原告ら各自は右暴行によって、多大の精神的損害を受けたところ、これに対する慰藉料は、各金五〇万円が相当である。

6  よって、原告らは被告に対し、不当利得として、原告甲野については差額金八、一二五万円のうち金五、六七五万円、原告乙山については差額金六万一二五円、不法行為に基づく損害賠償として各金五〇万円及び右各金員に対する不法行為以後の日であり、かつ、本訴状が被告に送達された日の翌日である昭和五四年一一月一六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否と主張

1  請求原因1のうち、原告らが主婦であり、被告がサラ金業者であることは認め、その余の事実は否認する。

2  同2のうち、(三)、(2)の事実は否認し、その余の事実は認める。

3  同3の主張は争う。

4  同4のうち、主張日時に主張金員を弁済として受領したことは認め、その余は争う。

5  同5の事実は否認し同6は争う。

6  被告の主張

(1) 本件弁済は原告が自陳する請求原因2(一)(二)の約定の消費貸借及び本件連帯保証契約に基づくものである。

(2) 被告の貸付方法は、互に近所に住む主婦数人が偶々一緒に被告事務所に来て各自が借用を申し込んだ場合、各自の借受について他の者が連帯保証をするということになったときには契約書作成の煩雑さを回避するため、一枚の借用証に五人分ならばその分をまとめて書いたにすぎないのであり、これを本件についてみるに、原告一人五万円の貸金について他の九人が連帯保証をしたということであって、それが公序良俗に反し無効となるものでないことは明らかである。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1のうち、原告らが主婦であり、被告がサラ金業者であること、同2のうち、(三)、(2)の事実を除くその余の事実についてはいずれも当事者間に争いがなく、右同2の(三)、(2)の事実は、《証拠省略》を総合すれば、次項判示のとおりこれを認めることができ(る。)《証拠判断省略》

二  本件グループ貸相互保証契約における公序良俗違反について

1  右争いのない事実、《証拠省略》を総合すると、次の事実を認めることがである。

(1)  昭和五二年ころ以降、被告は借主を約一〇名以上集団化して、その相互連帯保証等の形式で貸付ける形態の所謂「グループ貸」を自己のサラ金業の一部に取入れることとし、グループ貸用の「連帯借用書」と題する連帯債務者署名欄一二人分を設けた文書(甲一、乙一号証)を約一〇〇〇部印刷して作成し、グループ貸営業にそなえ、同文書を使用して本件グループ相互保証契約を始めとして原告甲野がグループ員となっているもので他に数件等昭和五四年中頃に至る間右グループ貸を営業の一部としてなし来たった。

(2)  原告甲野は専業主婦で、昭和三五年ころから、子供の入院費用などに多額の金員を必要としたことから、夫に内密でサラ金業者から金借するようになり、それが発覚して四回程整理をしたが、整理残がのこり、昭和五二年一二月ころにはサラ金業者等からの借入金がかさみ、その返済のために他のサラ金業者から金を借りる状況となり、返済の当てもなく金二〇〇万円以上を方々から借り放した窮状にあり、ために次第にサラ金業者から融資を断られる状況になって、いわゆる火の車の状況になっていたところ、他のグループ貸をなす業者の客仲間から原告甲野のように多額の借金を抱えている者でも借りられる業者がいるということで被告のことを聞き知り、被告に借入を申込んだ。

(3)  右申込みに対し、被告からは、借入の条件として合計一〇人以上の借主を集めてグループを作り、これらの者が同時に一括して借入れること、右人数でなければ貸付けない旨伝えられたので、早速同原告は、かねて知り合いの原告乙山や、既に利用していた他の業者のグループ貸の借受人仲間を勧誘したところ、右仲間のうち新たな借入先を求めていた者や右仲間が更に誘った者等一〇名が揃った。そこで原告甲野が右一〇名の住所、氏名等を被告に電話で連絡し、被告は右連絡をもとに、原告らグループ借受人らが右連絡の住所にそれぞれ居住しているかどうかを確認したうえ、折返し原告甲野に対し、右一〇名が各自住民票及び印鑑証明書を持参して全員揃って来るように回答して来たので、同月一二日原告ら一〇名が被告方を訪れたところ、被告は、右住所、夫婦の職業等を確認する程度で、金融業者が通常行う収入額、他業者からの借入の有無、額の多寡等の財産的な信用状態、弁済能力に関する事項については調査をせず、貸付の条件として、借主グループ全員につき、貸付金と弁済条件は一律同一とすること、その内容として請求原因2の(一)、(二)のうち、一律貸付金五万円、午後三時までの点、特約として右同(三)、(1)、(2)の条件を不可欠のものとして一方的に呈示し、わずかにグループ全体としての分割払の回数、分割払期日について交渉の余地が残されていた。

(4)  原告らグループ借受人はいずれも主婦であり、元来法的知識に乏しく、相互連帯保証の法律上の効果についても十分な認識もなしうる者ではなく、また、当時原告甲野は金六〇〇万円、原告乙山は金七〇〇ないし八〇〇万円、丙川夏子は金二〇〇ないし三〇〇万円を他のサラ金業者から借受けるなど、それぞれ他のサラ金業者からも借入をなしその返済に追われながら既に通常のサラ金業者からは借入が困難な立場にあり、多かれ少なかれ眼前の必要のため、とにかく、いくばくかの金銭の借入を切望する状況下にあったり、一部には以前に他のグループ貸の借主仲間であった関係上断り切れずに本件借主グループに入ったため、被告の呈示した前記特約条件の法的意味、そのため将来生ずる後記のような事態については思い至らなかった。しかも、原告らグループ借主は相互に以前のグループ貸の借主仲間等サラ金利用を通じての直接または間接の知り合い程度のつながりしかなく、殆んど個人的なつながりのないままに、借用グループの大半が相当の借金をかかえている者であることを知りつつ、借受人の信頼性、弁済能力につき予め検討する余地もなく、被保証人を選択する自由もなく、いずれも被告の前記条件を、金五万円を貸付けてもらうためにはやむをえないものとして、言われるままに前記特約条件を承諾し、分割を二〇回、支払期日を毎月四日とすることとして本件グループ貸相互保証契約を締結するに至り、各種書面作成のうえ、各自金五万円の交付を受けて帰った。

(5)  被告は、本件グループ貸相互保証契約締結時に、特に一括弁済特約の厳守を強調していたが、更に分割弁済期日の前日にも、本件借主グループの代表者的役割をなしていた原告甲野方に電話をして、右一括弁済特約の履行を予め強く要求し、さもなくば一切受取ることができない旨を通告するとともに、併せて右不履行のときは、原告らの身辺に何らかの危害が加えられるかも知れない旨暗示する言辞を付加してくるのが常であった(なお、昭和五三年一〇月四日には、後記のとおり右一括弁済特約の履行遅滞にからみ暴行に及んだ)。ために、原告らは分割弁済期日毎に午後三時の期限を守るべく、早めの一定時に特定場所に集合し、借受人各自が自己の弁済金を持ち寄ることとしていたところ、間もなく、自己の弁済金を捻出できないため参集しない者が、少数ながら生ずるようになった。すると、原告ら参集者は、その都度、やっきとなって、タクシーによる過大出費もいとわず、欠席者を捜し求め、他のサラ金等からの借入をしてでもその弁済金を捻出させるべく、つきまとって執拗な圧力をかけ、それも間に合わないときは、後記暴行時の原告乙山の立替払いのようにやむなく他のグループ借受人らが立替えて、直後からやかましく右立替分の弁済を迫ることがくり返され、この過程で、グループ借受人間にその都度口ぎたない喧嘩が生じ、また、借受人は相互に、立替払い防止のために、「夜逃げをしないか」等さい疑心にみちた監視的態度に終始し、債権取立屋まがいの態度をとり合う始末となり、次第にみにくい関係と化していった。そして、現に訴外戊田、同乙川、同甲田が分割支払いの途中で所謂「夜逃げ」の形で行方不明となっている。

以上のとおり認められ、被告本人尋問の結果のうち、右認定に反する部分は、就中、本件グループ貸相互保証契約は、偶々条件の似かよった借主が一〇人来訪したため成立したものに過ぎず、一括弁済特約はなかった旨の部分は、前掲証拠、就中、甲二一号証と添付元帳の記載、並びに前認定事実(1)及び通常の主婦である債務者が自発的積極的に一〇人も集って相互保証といった、法的に技巧的な契約を自ら申し出たり、簡単に快諾することは経験則上考えられない点、その他弁論の全趣旨に照らして到底採用しがたく、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  前項認定の事実関係によれば、本件グループ貸相互保証契約のうちグループ相互保証特約及びこれに基づく原告らの本件連帯保証契約は、借主たる原告らグループ借受人の多くが多額のサラ金債務を負担し、そのうち原告ら等多数の者は通常のサラ金業者からも容易に借入ができない程財産的信用に欠け、それぞれ自己の責任において、自己の借受金ですら円滑な弁済をなすことが到底期待できない状況のもとで、わずか金五万円を入手するためだけの理由でなされたものというべく、その締結に際しては、原告らグループ借受人は保証人として被保証人選択の自由は全くなく、この締結により、他の相グループ借受人の資力が当てにならないため、グループ借受人各自は、現実の利益享有額金五万円の一〇倍にあたる金五〇万円につき、しかも月九分という高利率による元利合計金の支払債務を負担し、その弁済の危険を絶えず負担させられる不利益を蒙ることとなり、他方、貸主たる被告は、右相互保証特約に加え強圧的に厳守を求めた一括弁済特約とあいまって、グループ借受人が資力に欠けるゆえに当然生ずる相互の牽制監視作用により、本件のような無資力者に対して、連帯保証を相互にせしめることなく貸付けた場合に通常生ずべき回収の危険と労力、費用の負担を事前に回避し、本来許されない制限外高利による元利金を任意弁済の形態で確保するとともに、併せて他のグループ借受人の主債務に関する取立のための労力と費用の一部をも、事実上原告ら借受人各自に転嫁する利益を得ることとなるというべく、右両当事者間の利害の間には著しく不均衡不平等があるというべきであり、また、右利害は契約締結当時において容易に認識ないし予測しえたものというべきである。

そして右にのべたところと前認定事実関係、就中、本件グループ貸相互保証契約締結の経緯、被告のグループ貸に関する営業姿勢を総合すれば、むしろ、被告は右不均衡を知りつつ右原告らの無知、窮迫、軽率に乗じてその優越的地位を利用して本件グループ相互保証特約を締結せしめ、よって、弁済能力による借主選別をなすより、むしろ貸付けを容易にし、その代りに借主を相互保証によりグループ化し、その人数を多数とすることにより貸付けの危険を補い、その中の少しでも余裕のある者から支払わせ、回収を容易にする意図のもとに右契約を締結したものと推認するに難くない。

そうだとすると、本件のように借主グループの人数が一〇人もの多数との間で、しかもその殆んどが自力弁済能力の極めて低い者であり、また、厳格な履行を迫られる一括弁済特約のもとでなされた原告らの本件グループ貸相互保証契約についてみるに、わずか五万円の少額の借入について、保証人を九人もの多数つけさせることは、主債務者、保証人が共に資力に欠けるとしても、それ自体異例の事柄に属し、なお通常人をして納得せしめるに足りないというべき点、貸主が借主兼連帯保証人の窮迫、軽率に乗じて、貸金に比し前記の著しく不均衡な内容の保証債務を選択の余地なく負担させる点、及び債務者が自ら招いた結果とはいえ、契約締結当時において既に予測された前記の右相互保証特約がもたらす不均衡な機能及び前記の債務者間における精神的荒廃を総合すれば、少くとも本件グループ相互保証特約及びこれに基づく連帯保証契約部分に限り、公序良俗に反するものというべく、民法九〇条に基づき無効といわざるを得ない。なお、本件グループ貸相互保証契約における是正を要する不均衡は、右の特約とこれに基づく連帯保証契約部分に存するに止まり、原告らの本件消費貸借契約部分については、その借受金が一律五万円に固定されていたことにより、仮に不必要な余分の金員を借入せざるを得なかったとしても、右固定額が小額である点に照らし、また、後記のとおり、約定利息が月九分という利息制限法に著しく違反する高利のものであるが、右違反部分のみの救済が可能な点に照らせば、右両事情によっても、他に特段の事情が認められないので、直ちに民法九〇条違反といいがたく、また、前記相互保証特約と連帯保証契約が無効であるにしても、他に特段の事情が認められない本件では、直ちにこのために本件消費貸借契約部分までも無効たらしめるものでもない。

よって、原告の請求原因3の無効主張は右の限度で理由がある。

三  不当利得返還請求権について

請求原因4のうち、本件弁済が、少くとも請求原因2(一)(二)の約定部分につき当事者に争いない本件消費貸借に基づく弁済として別表(一)及び(二)どおりの日時、金額でなされたことは同じく当事者間に争いがなく、右消費貸借契約が有効であることは前示のとおりである。そして債務者が元本とともに任意に支払った利息制限法所定の制限をこえた利息・損害金は、充当に関して特段の指定がなされないかぎり元本に充当され、計算上右制限に従った元利合計額をこえる支払額は法律上の原因のない不当利得となるというべきところ、これを本件についてみるに、本件弁済金につき各弁済日を基準とした利息制限法所定の制限利息は、別表(一)及び(二)の各「制限利息」欄記載のとおりであり、また、充当に関して特段の指定があった点、その他特段の主張もないので、前記法理により本件弁済金を充当計算すると、同表(一)及び(二)記載のとおりで、結局、そのうち元利合計金部分(原告甲野につき金五万四一七六円、同乙山につき金五万四一五九円)は有効な弁済となり、これをこえる部分である原告甲野につき金三、九四九円、同乙山につき金五万五九六六円は、それぞれ法律上の原因を欠く利得となり、原告らは同額の損害を蒙ったこととなり、被告は右金額を、右各原告にそれぞれ不当利得として返還すべき義務があるものというべきである。よって、請求原因4は右限度で理由がある。

四  慰藉料請求権について

《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められる。

(1)  昭和五三年一〇月四日、本件借主グループが本件一括弁済特約にもかかわらず、指定時刻の午後三時までに被告の事務所に一〇人分の分割元利合計金五万二〇〇〇円を持参しなかったところ、被告は、早速、借受人の一人に連絡したが、情況が判然としなかったため、立腹して、急拠、従業員一人を同行して車で集金のため借受人ら方へ向った。原告甲野、訴外戊田松子の留守宅に続き、被告は同日午後五時四〇分ころ、原告乙山の肩書住所地に赴き、入口付近で原告らほか二名が集っているのに会い、いきなり声高に「今日の金はどうなっとるんや」等と申し向けたが、これに対し原告乙山が「お金は奥にあるから大きな声を出さんといてな」と答えたので、被告は原告らとともに原告乙山宅奥六畳間に至り、原告乙山より当日分の前記元利金を受取ったところ、その際、被告は、受領金のうち余分の一万円札を投げ捨て、これを拾って立ち上ろうとする原告乙山に対し、いきなりその左煩を平手で一回殴打する暴行を、更に、同所に居残っていた原告甲野に対し、「なめとんのか」と言い、頭部を平手で一回殴打したうえ、その左大腿部付近を数回足蹴にし、その頭髪をつかんで引っ張るなどの暴行を加えた。

(2)  被告は昭和五五年五月二八日原告らに対する前項暴行及び右同時になされた訴外丁原に対する暴行により、罰金八万円の刑に処せられた。

以上のとおり認められ(る。)《証拠判断省略》

右認定事実によれば、被告は原告各自に対し、暴行行為に基づく精神的損害に対し慰藉料を支払うべき義務を負うというべきところ、如上認定の全事実関係及び弁論の全趣旨によれば、右暴行の背景、経過、目的、態様、程度等の諸事情に照らし、これにより原告らの受けた精神的苦痛、屈辱感精等神的損害に対する慰藉料は、原告甲野につき金一〇万円、同乙山につき金五万円をもって相当とする。

よって、請求原因5は右限度で理由がある。

五  結論

以上の次第であるから、各原告の本訴請求は、不当利得として、原告甲野につき金三、九四九円、原告乙山につき金五万五九六六円、不法行為に基づく損害賠償として、原告甲野につき金一〇万、同乙山につき金五万円及び右各金員に対する不法行為以後の日であり、かつ、本訴状が被告に送達された日の翌日であることが記録上明らかな昭和五四年一一月一六日から支払ずみまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるというべく、よって右限度でこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 杉本昭一 裁判官 森真二 吉田恭弘)

〈以下省略〉

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